「ゴルファーには2種類しか存在しない。すなわち夏坂健の本を読むか読まないか。つまり知性的か非知性的か、彼の本はバロメーターとされる」
 ある新聞が涙とユーモアに満ちた夏坂さんの世界を評して紹介した言葉だそうです。
 夏坂健さんが生涯所属したクラブは「地球ゴルフ倶楽部」。
 ナイスショットの喜びと、ラフに打ち込む憤怒、悲喜こもごもの向こうに、ゴルフの歴史を見、自然と風土を愛し、ゴルフする人々に温かい眼を注ぎ、その源流をこよなく慈しみ、訪ね歩かれた人生でありました。
 歴史小説家・司馬遼太郎氏の仕事に「司馬史観」という学問を見るならば、夏坂さんのリンクスへの畏敬のこもった旅はまさに「リンクス街道の巡礼者学」という『ゴルフ学』」であります。
 その夏坂さんをして、
 「さて、私はこれからスコットランドに向けて出発する。セントアンドリュース、ミュアフィールドにも立ち寄るが、本当の目的は「ロイヤル・ドーノック」の再訪にある。人口1千人にも満たない小さな村に、世界一の名コースが静かに横たわっているのだ。いまや疲労はピークに達しているが、ほら、もう足の奴めが勝手にトコトコと…。
 そして、
「私はいま、1番ティから50ヤードしか離れていないロイヤル・ゴルフホテルの203号室にいる。この角部屋からはコースの全景と、彼方に広がるエンボ湾が一望されて絶景の極み、叶うものなら、死ぬまで動きたくない。」
 といわしめる、ロイヤル・ドーノック・ゴルフクラブ(Royal Dornoch Golf Club)。
 この文章に出会ったときから、いつかきっとと憧れていたコース。
 行ってきました。

    エジンバラへ、そしてハイランドへ

5月24日(土)

 関空からロンドン、そしてエジンバラへ。到着は午後8時30分。
 エジンバラのいつもお世話になるテラスホテルに予約を入れたのだが、Sorry I'm Fully の返事。「んっ?」と思い、WEBで検索したB&Bに予約を入れるも全てFully。
 あちらを旅していたときは全然感じなかったが、どうやら日本も含め、東洋全体がSARS汚染地域と思われていて、できるならこの時期、予約は受けたくないという感じがあったのではないかと思う。しかたなしに、キヨブタ(清水の舞台から飛び降りる)でシングル60ポンド(関空での換算レートは1ポンド約202円)もする Hilton Airport 。ここはさすがに世界のホテル、日本の現状を理解していて問題なしに予約オーケー。
 レンタカーの車庫のすぐ前。

5月25日(日)

 エジンバラには今度で4度目であるが、エジンバラ城すら見ていない。いつもグループでゴルフ優先。が、今回はひとり旅。今日はピットロッホリーまで行き、できれば夕方からワンラウンドの予定。午前中は観光とやらをしてみようと思い、ロイヤルマイルを歩く。が、別に面白くもなんともない。
 きのうヒースローでターミナル4から1への間でカート型旅行カバンが壊れてしまったのでジェンナーズで買う。
 この百貨店のキャッチコピーは「ニューヨークにブルーミングデール、ロンドンにハロッズ、エジンバラにはジェンナーズ」ときた。つまり世界に誇る老舗である。
 本屋を見て、昼を食べて、M90からA9へ。
 今回の旅、「ロイヤル・ドーノックへの旅」のルートとしては、ロンドンからいきなりインバネスに飛ぶというのが手っ取り早い。しかし、それではなんだか味気ない。だいいち、巡礼というのはだんだんと目的地が近づいてきて、それにつれて気分が高揚してくるという過程が大切なのだ。
 ロンドンからその日の内に乗り継ぐことはできないが、翌日の便でアバディーンへ。ロイヤル・アバディーン、クルーデン・ベイ、ネイアンという一級のリンクスでラウンドし、その後インバネスというルートは夏坂さんのたどった道。
 わたしはピットロッホリー、ニュートンモア、あるいはボート・オブ・ガーテンをめぐり、インバネスというルートをとった。過去、ジ・オープンを開催する超A級のコースを巡ってきたが、普段着のゴルフというのにも触れたかったからだ。
 エジンバラを出て約2時間足らず。午後3時過ぎピットロッホリー(Pitlochry)着。美しい小さな田舎の村である。
 町の案内所のすぐ前のB&B(£25 per person )に宿をとり、荷物を部屋に入れていたら、にわかに激しい雨。「ありゃ」と思いつつ、ま、町の裏手のゴルフ場へ行ってみる。
 質素なクラブハウスとプロショップ。
 「今からでもできる?」
 「もちろん!」
 「この雨、スコテッシュ・ウェザーですぐやむ?」と聞くと、
 「ダメですねー、あの雲が山を越えてやってきてますからねー」とショップのお兄さんは目の前の山を指さす。
 あきらめて、翌日の朝の予約をして宿に帰ってゆっくりと風呂。(なんと£25でバスタブまでついている)読みかけの、宮部みゆき『火車』の続きを読む。文章良くない、テンポも悪い。やっぱ高村薫にすりゃよかったかなあ〜。『マークスの山』、一気に読まされたもんなあ〜。

ピットロッホリー Pitlochry

ピットロッホリー18番ティーから。赤い屋根がクラブハウス。
  

5月26日(月)

 ピットロッホリー・ゴルフコースはピットロッホリーの町のすぐ裏の丘陵に広がるコース。
 アウト3,012ヤード、パー35、イン2,799ヤード、パー34。グリーンフィ£20。
 まったく穏やかななコースで、ゆったりとうねる高原状の風景にショットの手を休めてつい見入ってしまう。
 1番ティーのうしろに練習グリーン、その横にショットの練習場。貸ボールというのはなく、自分のボールで勝手に打って自分で拾う。短いアプローチをしていたら、お父さんに連れられた10才くらいの男の子が練習開始。なかなかいいフォームでスイングしている。
 1番ティーに移動したら私の後のスタートらしい。「先に行く?それとも一緒に回ろうか?」と聞くと、お父さんが、
「この子、今日が初めてのラウンドなんです。迷惑かけるから先に行ってください」
 「よっ、コングラッチュレーション、レッツ、トライ、ベスト!」とひどい英語を投げかけ握手をして励ましてあげる。
 たぶん、この子にとって、初めて見る日本人のショット。チョロなんかしたら、あす学校で、「日本人てゴルフ、へたなんだよっ」と言われかねない。そんなことを思いながら、日本を背負ってのドライバー。ちょっとひっかけ気味だったが、お父さんから「グッ、ショッ!」の声がかかった。
 丘陵コースだけあって、アップダウンはきつい。ときにトリッキーなホールもあり、おもしろい。廻っている人もあんがいいるが、しかし静かだ。
 18番グリーンはクラブハウスのすぐ前、グリーン脇のベンチに5才くらいの幼児を抱いたお母さんが18番のティーグランドの方を眺めている。

 10時にスタートし1時過ぎ終了。
 顔を洗って、ハウスでシャンデー(ビールをレモネードで割ったモノ)を飲み、ビーフカレーを食べながら18番グリーンを見ていたら、うしろの組の父子が上がってきた。
 ホールアウトするとお父さんと握手をし、ちょっと照れくさそうにベンチのお母さんに手を振っていた。
 見るともなしに18番を見ていると、ホールアウトしたプレーヤーは若者同士、おじさんの組、家族、例外なしに握手と言葉を交わしている。夫婦づれは軽くキッスをしている組もある。いい風景だ。
 眠くなるといけないと思い、シャンデーでガマンしたけれど少しポッとしている。酔いざましをかねて町のゴルフショップや文房具屋などをひやかす。

ピットロッホリーの村
ゴルフ場への道(看板の小ささ!)
ピットロッホリー18番ホール
ピットロッホリーの村の西を流れるTummel 川

 A9を北上。やがて低い山に囲まれた荒涼とした風景に代わる。道ばたの看板に
[Welcome Highland]とある。
 途中、事故による渋滞、道路工事になどがあり、かなりノロノロ運転。心づもりで
はピットロッホリーは昨日で、今日はインバネスへの途中、キヌースィーの手前にあ
るニュートンモア(Nowtonmore)でのラウンドをもくろんでいた。せめて、見るだけでもと思っていたのだが、渋滞に渋滞でそれもかなわず、6時頃インバネス。
 目星をつけておいたキャッスルの近くのB&B、Craigside Lodge へ。

テイン Tain

5月27日(火)

 インバネスはハイランドの中心都市。ネス川が流れ、なんだか陰気な町を想像していたが、明るくさわやかな都会であった。人の出も多く活気もある。が、静かで落ちついた雰囲気はヨーロッパの歴史ある都市独特のものでもある。
 A9でテインまで45分くらい。
 走り出すと、ゆったりとうねる大地に、敷き詰められたように菜種の花が咲き、羊や牛が草を食み、日本の初秋のようなちょっとヒヤッとした気温。遠くに低い山が見え、のどかな初夏のハイランドの風景が広がる。
 テイン・ゴルフクラブのコースはイエローマークからアウト3,043ヤード、パー35。イン3,066ヤード、パー35。コースデザインは、あのオールド・トム・モリス。グリーンフィ£30。
 スコットランドにおけるコースデザインは、まず何をおいても、ゴルフの神様 Tom Morris 。
 第一回全英オープンの行われたプレストウィックをはじめ、これからめざすロイヤル・ドーノック、あこがれのキンタイア半島の先っぽにあるマクリハニッシュなどの超大作。そしてこのテイン。ファイフの小さな真珠と賞されるクレールや、ダンバー、レディーバンクなどブリティッシュ・アンド・アイルランド・ベスト100コースには入るが、あくまで土地の人々に親しまれている数々の珠玉のコースを残している。
 次にちょっと時代が下がって、ジェームス・ブライドJames Braid 。
 代表作はカーヌスティー、マッセルバラなどで知られるが、ハイランドに連なる村々の名コース、ブローラ、ゴルスピー、ボート・オブ・ガーテン、ウィック、そうそう昨年訪れたファイフのエイルElie もブライドの作品である。インバネス空港の東の名コース、ネアンはトム・モリスの原作をブライドが改修したコースである。
 まず、この2人が双璧。ちょっと気になるコースのデザイナー欄を見るとこの2人の名前を見つけることが多い。

 さてテイン。
 おばさん1人、若者2人のマッチ、わたし1人、うしろはおばさん2人。それぞれがモーター付のカート、普通のカート、かつぎと、人数もゴルフ形態も様々。一人で、というのはあんがい多く、4人組というのはめったにお目にかからない。
 午後1時かっきりにティーオフ。
 1番、371ヤード。雰囲気はカーヌスティー風。風もなく晴天。歩き出すとリンクス特有の気持ちよさが背中に駈けあがってくる。
 わたしにとって適度な距離で、ラフもブッシュもしっかりあるが、フェアウェーも広く、あまり気にならない。11番のセカンドは全くのブラインド。グリーンはラフの丘の向こう。カートを置いて確かめに行ってもいいのだが、スリルを楽しんで目印のポールをめがけて155ヤードを7番で打つ。
 行ってみると、手前に乗っていて、グリーンのすぐ向こうは海であった。「ふーっ、ナイス」と安堵してスリーパット。
 17番は211ヤードのショートホール。少し打ち降ろしで4番アイアンでオン。と、うしろから「グッーッ!」の声。犬の散歩の65、6くらいのおじさんで、手にアイアンを一本持っている。
 18番で押し出し、行ってみると、あわやクリークの土手。ぶらぶらと前を歩いていた先ほどのおじさん、「ここだよ」と教えてくれる。「サンキュー」といって、ヤーテージブックを開いて距離を確かめようとしたら、即座に、「ワン、フィフティー」ときた。
 「イエス」と答えてナイスオン。離れたところを歩いていたおじさんが振り向き、親指を立ててニッコリ。
 ふーっ。スリーパット。

クラブハウス。左端がプロショップ。

 あがってギネス。A9へ戻り、ドーノックへ。
 目星をつけていたイーグルホテルは満室で、おすすめでキャッスルホテルに行く。が、古く、つくりはイイのだがなんだか暗い。£36で、それも今日はサービスデーで明日は£44だという。とりあえず一泊。
 風呂で汗を流し、ゴルフ場へ歩いて行ってみる。
 さすが……。
 しっとりとコースが横たわっている。スタート・ティに4本のフラッグ。その向こうに夏坂さんご贔屓のロイヤル・ゴルフホテルも圧倒する豪華さではないが、いかにもそこにあるという風情が漂っている。

   

ロイヤル・ドーノック Royal Dornoch Golf Club

ドーノック1番ティ

5月28日(水)

 ロイヤル・ドーノックゴルフクラブ。その佇まい、まったく文句なし。
 一言でいうなら、しっとりとしていて静か。伝統と格式、威厳、世界中のゴルフファンのあこがれでもあるのに威張ったところ全くなし。
 今日と明日、このコースでプレイできるのかと思うと、おもわず顔がほころんでくる。
 私の前後それぞれ一人でやってきた人と一緒になり、3人でスタート。一人は自分でバッグを担ぐイングランドの私と同年代くらいの人。もう一人は少し若いかな?というキャディーをつれた南アフリカの人。私は手引きのカート。
 それぞれ名前を言って挨拶したのだけれど、相手の名前をすぐ忘れてしまう。2、3度聞き返すのだけど、また忘れる。しかし、この2人は良くおぼえていて、「ムラヤマはマルヤマと兄弟か?」と冗談を言ってくる。「プリーズ、ユー・ルッキング・マイ・プレイ。アンド、ジャッジ・イット」。彼らは納得したようだ。

No1ホール

 黄色のティーマークから、1番300ヤード、パー4。スプーンやバッフィー、あるいはアイアンの人もあり、静かな出だし。2番167ヤードのショートホール。3番398ヤード、4番403ヤードと難しくなってきて7番423ヤード、パー4あたりが前半の鍵。
 折り返しての後半は、11番434ヤードのシーサイド・ホール、14番439ヤードのパー4の砲台グリーンあたりがスコアメイクの山場。

No.11

 トリッキーなホール一切なし。川なし、池なし、極端に深いバンカーもなし。恐怖のゴースも一度入ってアンプレアブルにしただけだったのに90を切れなかった。強く打って、ギュとスピンをかけるか、フワッとあげる微妙なアプローチができるか、あるいはあきらめてパターで砲台グリーンを駈け上がらせて、なんとかボギーでおさめるか。自分の腕と度量に合わせたゴルフを要求される。
 しかし、眺め良し、ひんやりとした澄んだ空気が流れ、ゆったりと抱きしめられるような快感があるリンクスである。

 夏坂本(『ナイスボギー』の中の「眺めのいい部屋」より)の孫引きではあるが、ウェイティング・リストに名を連ねてやっと入会したトム・ワトソンとベン・クレンショー。ワトソンは「五大陸の中で最良のコースの一つ。私はドーノック以上のコースでプレーしたことがない。まさに自然が創造した最高傑作だ」
 一方、プロの中でも屈指の学究肌のベン・クレンショーは、「早朝の霊光も神秘のひと言に尽きるが、とくに素晴らしいのが薄暮の時間だ。私は神の国でゴルフをしているように思う。ドーノックには、いまなおゴルフの『無垢』が息づいている」といっているそうだ。

 と、まあ最初の1日は夢中のうちに過ぎてしまった。
 イングランドからの男はロイヤル・ゴルフホテルにそのまま、あがっていき。私は「ナインティーンス・ホール」と記されたクラブハウスの二階の「眺めのいいサロン」でビールを飲みながら、エンボ湾を向こうにしたリンクスを眺め「叶うものなら、死ぬまで動きたくない」などと、夏坂さんをまねていたら、南アフリカが待たせていたのか、女房らしき人とやってきた。

18番
19番と称されるクラブハウス
まさに死ぬまで動きたくない眺め

 明日からカーヌスティー、セント・アンドリューズなどを回り、ロンドンに帰ってウェント・ワースを予定しているのだそうだ。「同じような好きな奴がいる」と思い、「うん、私しゃ、そのどれも行ってきたよ」なんて、自慢をぐっと飲み込んで、「オーッ、イッツ・ベリーナイス!」と、羨んで見せたのであった。

 さて、今夜はどうしようか?キャッスルホテルは引き払ってきたし、ロイヤル・ゴルフホテルはパンフレットを見ると2泊と3泊の値段からで、シングル一泊99ポンド。さんざ迷った末、村の案内所の近くのB&B(27ポンド)に落ち着く。つくづくおのれのビンボー症に愛想が尽き、しばらく悩んだ。
 が、実に清潔な部屋で快適。ゆっくりとシャワーを浴び、スケッチブックを持ってゴルフ場を散歩、せめてもと、ロイヤル・ゴルフホテルでビールを飲み、ナントカ・ドリアとサラダの夕食を敢行したのであった。

ドーノックの村の中心地

5月29日(木)

 10:40スタート。
今日はカリフォルニアから来た50代半ばくらいの、がっしりとし、髭を生やしたジュリー。サンフランシスコジャイアンツの帽子をかぶっている。と2人。
 スターターのおっさんが、彼と引き合わせ、「こちら(私のこと)きのうもプレーしたよ」と紹介。バックを担いだ彼も2度目だとのこと。
 今日もイエローマークからで、アウト3,048ヤード、パー35。イン3,181ヤード、パー35。
 昨日と違い、前半ラッキーもあり、ワンパットでよくねばって快調。カリフォルニアのほうは、いい球を打ち、上手いのだけれど、トップした球がラフに消えたりして、「テリブルッ(ひどいっ)」などと小さくつぶやいている。
 彼も又、3週間の休暇でスコットランドのあちこち、あこがれのコースを回るのだそうだ。東京から150キロくらいのところに知人がいる。とか言っているが、その地名が何度聞いてもわからない。「カリフォルニアはゴルフ・ステーツって言うんだろ。ラキンタやペブルビーチなどでプレーしたよ、しかし、長いコースだねえ」と言ったら、嬉しそうに「好きだなっ」ていう顔をしやがった。

 8番で折り返し、9番からは強烈なアゲインスト。ただ、低くまっすぐな球を念じて打つ。が、このあたりからカリフォルニアが実力発揮。
 低く出た球は風をかいくぐって向こうの方でふあっとあがりポトリと落ちる。アプローチはやわらかいトップからドスッとおろしてフォローをとらず、トントンと止める。
 前の組が珍しく四人組で全員がキャディーを連れている。風の中で待たされる。
 ヤーテージブックを見ていたら、カリフォルニアが「ちょっと見せて」とのぞき、ぱっと見て「サンキュッ」という。ここでふと気がついた。カリフォルニアはここまでヤーテージブックを持っていないばかりか、一度ものぞきに来たこともない。が、迷うことなくティーショットをうち、2打目も打っている。はは〜ん、と思い、「ジュリー、あんた、ここのホームページで何度、プラクティスラウンドをしたんだ?」と聞いてやったら、ニッコリ笑って答えなかった。

 17番ホールに来た。ここは180ヤード先から、ぐっと下がってフェアウエーが右に傾く390ヤードのホール。ドライバーだと左のバンカーの上を越して、その先の、ブッシュの右ぎりぎりに落とさなければならない。250ヤード以下の飛距離だと右に蹴られて深いラフに飛びこむ。いずれにしても落下点は見えない。
 私は迷わず4番アイアン。ナイスショットはしたが、これだと170から180ヤード残り、私の場合、パーの確率は50パーセントを割る。と、見ると、カリフォルニアは全く迷わずドライバーを抜いている。憧れのコース、研究に研究を重ね、「17番はぜったいドライバーで挑戦だっ!」と決め込んでやってきたのだろう。
 静かないいアドレスだ。すうーっとあげて、トップでシャフトがしなるようなダウンスイング。芯をくった快音を残して、バンカーを越え、フェアウエーの左端を越え、思い描いたままの飛行ラインを描いて向こうに消えた。
 「グッ、ショッ!」と歩き出した私の後ろで大音声が響き渡った。「うあ、お、お、おおおおお〜っ!」。驚いて振り返ると、それまで物静かだったカリフォルニアが両手を天に突き上げ、全身を震わせて叫んでいる。
 「ふーっ、おっまえも好きやなあ〜。負けたぜ!」と嬉しくなり、腹の底から笑いがこみ上げてきた。

18番ホール

 なんだか、余韻を楽しみたくて、顔を洗いビールとサンドイッチを食べ、再びもう一つのコース「スチュルー」(Struie=何度聞いても発音できない)を回る。
 1番、2番はやさしく、ま、気楽なコースかと思いきや、これがまあ、距離は届かないわ、ラフは迫ってきてきついわで手ごわいコース。体力も限界で、全身をつっぱらせ、へとへとになり7時30分頃終了。  

 車を走らせ、ゴルスピーを越えてブローラ(Brora)に向かう。が、行くところ行くところのB&Bは満室。最後に聞いたところで「明日はゴルフのトーナメントがあり、この辺はベリー・ビジー」という。と、いうことは、ゴルフ場も一杯か?と思い、ゴルフ場へ。
 案の定、明日は午前11時30分までトーナメントのティータイム。それではインヴァネス発17時30分に間に合わない。仕方なく、ゴルスピー(Golspie)まで戻って、ドーノックでもらった雑誌に出ていたリンクス・ホテル(30ポンド)へ。
 海岸に面したホテルでビールをしっかり飲み、ワインも飲み、まったく気骨のある頑丈なステーキをいただく。バスタブがあり、長々とつかり、低周波マッサージをかけているうちに寝てしまう。四時頃、のどが渇いて目が覚め、体中が痛く、インドメタシンを塗りたくり、ミネラルがないのでお湯を沸かして飲む。歳しゃ、とりたくないもんだ。

ゴルスピー Golspie

5月30日(金)

 おっ、今日はもうダウンかな。と半ば覚悟していたのが、カラダは案外しゃんとしている。さあ、ファイナル・ラウンドだ。
 ゴルスピー(Golspie Golf Club)はホテルから2、3分。
 バラックのようなクラブハウス。「できますか?」と聞くと、「はいはい、どうぞ」。
 ヤーテージ・ブックを下さい。というと、困った顔をしてかすれてよく読めないコース図が印刷してあるパンフレットとスコアカードをくれた。スコアカードには─A James Braid Golf Course EST:1889─とある。

 天気良し、風も少しきついが清々しい。コースも穏やかで大きく静かだ。海を背景に全く美しい。手入れもよく行き渡っている。しかし、質素なことはこの上ない。
 シーサイド・リンクスが8番から池などもある林間コースになり、11番からはヒースランド・コース。15番から再びシーサイド・リンクス。430ヤード、420ヤードと私にとってパーオン不可能なミドルも多く、フェアウエーは広いがラフも一流。少し疲れているのか、右へのボケボールでラフにつかまることが多い。

バラックのようなクラブハウス。が、中はシックなインテリアで居心地がいい。
8番、9番はパークランド・コース
中学生二人がパットの練習。そのむこうにコースが広がる。

 昼すぎに上がり、二階でゆっくりと昼を食べ、窓の外を飽かずに眺める。夫婦で、あるいは小さな子供を連れた組、なかには中学生一人というのもいる。男2人で、女同士でマッチをしているのが圧倒的だが、女性一人も案外多い。ちょっと練習してこようという感じなのだろう。担いで回る人、手引きの人、電動カートの人とさまざまなシッルエットが海をバックに浮かび上がる。中学生2人が練習グリーンでパットをしているのを横目に引き上げる。

 A9をインヴァネス空港に向けて走る。空は明るく高く、入江の向こうに菜の花を敷き詰めた丘が見える。羊が草をはみ、子牛が運転している私を眺めている。スコットランドの歌、アニーローリーを口ずさみ、雲に向かってここに導いてくれた夏坂さんに「ありがとうございました」とつぶやいたら、どくっと音を立てて涙腺がゆるんでしまった。

 まっこと、いい旅でありました。
 ロンドンに帰り、次の日、新しくできた「テート・モダン」を見る。ロンドンは30度を超す真夏のような暑さ。ヒースローを飛び立ち、ソウルへ。ところが、行く前からわかっていたのだが、SARSで夕方の大阪便が減便されていて、ソウルで一泊を余儀なくされた。久しぶりのソウルでの焼き肉もいいかと思い、航空会社からのミニバンでホテルまで送ってもらう。が、ソウルに入ったとたん、ミニバンの運ちゃんとタクシーとがエグったとか、やかましいとか、窓を開けて、怒鳴りあいの大喧嘩。
「あ〜あ、我が東洋に帰ってきてしまったのだ!」と、ちょっとガックリ。今度はロンドンにも何処へも寄らず、あの美しいハイランドをしっかり抱きしめたまま、まっすぐ帰ってくるぞと誓うのであった。